危機的状況時の心の反応

危機的状況に陥ると、人は欲求不満と葛藤が生じます。

欲求不満は、ある欲求の充足が現実に、または可能性として阻止された時に起きる心の反応です。ただ単に、欲求の充足が阻害されたことを感知する受動的フラストレーションと自己の安定感の危機をも感じる能動的フラストレーションがあります。このうち、能動的フラストレーションは防衛機制発動の契機になりやすいと言われています。(防衛機制については、後程解説します)

葛藤は、対立する二つあるいはそれ以上の動機や欲求が個体内に存在し、その二者択一の決定が困難になっている事態をいいます。対立する二つの動機のうち、一つを選択して決定するのが意志的行為であるとすれば、意志的行為は常にある程度の葛藤を伴うともいえますが、真の意味の葛藤は選択が困難を極めるか、または選択が不可能な場合にのみ起こると言われています。

それぞれが正の誘引力を持つ2つの目標間の選択に迷う際に起きる葛藤を接近ー接近型葛藤と呼び、それぞれが不の誘引力を持つ2つの目標間の葛藤を回避ー回避型葛藤、正と負の誘引力を持つ2つの目標間の葛藤を接近ー回避型葛藤と呼んで区別することがあります。


防衛機制(または適応機制)

人間が環境に適応した行動をとるために使用する方法を防衛機制または適応機制と言います。この場合の環境とは、自然的環境だけでなく、社会的環境や内的な心理的環境も含みます。社会的環境や特に内的な心理的環境に対する適応は現実的、合目的に処理できるものばかりとは限りません。適応が現実的、合目的になされるかは、直面している問題がどの程度困難なものかによっても、またそれを処理する個人の側の処理能力によっても違ってきます。

個人の処理能力はその人の性格や知的能力といった狭い意味の個人的能力だけでなく、その人が家庭や学校、職場あるいは地域社会の中にどの程度心の支えとなる「場」をもっているのか、信頼し相談できる人がどの程度いるのかということも個人の処理能力の中に含まれます。

直面している問題が困難だったり、個人の処理能力が乏しい場合にはげ実的、合目的な問題処理が行われず、その人は危機的状況に陥り、欲求不満や葛藤が生じます。こうした緊張状態が長く続くと、個体は心的エネルギーを消耗し、さらに深い危機に陥ってしまいます。こうした危機を防ぐために、いわゆる防衛機制が機能するのです。

防衛機制(または適応機制、以降省略)の特徴としては、①欲求不満や葛藤に由来する不安を部分的に解消し、自我のまとまりを維持する働きがあります。②この過程は、意識的なものではなく、本人の無意識のうちに働いているのが特徴です。無意識の為、当人も自分が行っている防衛機制の動機に気づかないことが多いとも言われています。

防衛機制は、その用いられ方が固定し、不必要な状況において、すぐにそれが適応されることがあります。発動すると、逆に個人の不適応を来してしまいます。しかし人間には本来、常に何らかの欲求不満状態や葛藤状況にあるため、こうした防衛機制が用いられるのが普通なのです。それが、固定されたり不必要に用いられない限りは健康で正常な反応といえます。

防衛機制には種類があります。

抑圧:受け入れ難い感情・欲求や記憶を無意識のなかに押し込める。閉じ込められた感情や欲求を再び意識にのぼらないようにしている可能性もある。汚いもの、いけないものと思い込んで育った場合、それらを認めると自分も汚いもの、いけないものになるので認めることが出来なかったり認められなかったりする。

投影:自分のなかの認めたくない感情や欲求を他者に属するものとみなす。異化または吐き出しの機制と言われています。自己の内部にとどめておくことが深いものを外に出してしまう機制であり、自分のなかにある認めたくない感情や欲求を他社に属するものとみなす心の働きです。

取り入れ:相手の属性を自分のものとする。摂取ともいわれ、他者の感情や属性を自分のものとして考えたり感じたりします。個々の感情や属性などを自分のものとする点が特徴で、自分が好きな人のしぐさや口調を無意識に真似たりします。この取り入れは、精神的な成長を遂げることに繋がります。

同一視:相手と自分を同一とみなす。他者のある一面または全体を自分のなかに当てはめて、それと類似した存在になることを意味します。子供が両親の行動を真似したり、両親と自己を同一視することなどが典型的な例です。

転換:無意識的なkっと宇が運動機能や感覚器官の症状に置き換えられる。ある欲求や感情が抑圧されて生じる無意識的な葛藤が運動機能や感覚器官の症状として置き換えられる反応です。例えば、見たくない光景や映像を見た人がその事実を感情的に受け入れられずヒステリー性の視覚障害を起こすことが知られています。眼科的には正常ですが、視力障害が現れ見たくないとの無意識的葛藤を視力障害の形で訴えます。こうした身体症状を身体言語(または器官言語)といい、視力障害のほか、矢立失歩、発生障害、嘔吐、知覚麻痺などさまざまなものがあります。

置き換え:感情や欲求を本来向けられるべき対象と違った対象に向ける。たとえば、両親に対して無意識に反抗心を持っていると、目上の人に置き換えられ、必要以上に反抗的態度をとったり、両親に依存心があると恋人との関係のなかで再現されたりすることがあります。置き換える相手は、人間とは限らず、形見や持ち物、ペットなどが対象になることがあります。

反動形成:本来の感情や欲求を正反対のかたちで表現する。無意識に好きな相手にわざと冷たくしたり、関心のないふりをしたり、逆に嫌いな相手に必要以上に丁寧に対応して嫌味だと受け取られたりする。無意識だが、相手には不自然さやぎこちなさ、わざとらしさなど目につく行動になっていることもあります。

打ち消し:罪悪感を他の行動で打ち消す。「つぐない」と「やりなおし」をして、罪悪感自体をなくそうとします。相手を非難した後に、しきりに褒めたりします。

合理化:もっともらしい理屈づけで真の動機を隠蔽する。不満や失敗が自己の無能や不徳からきているのに、それに対し他の理由をつけて、自分自身を欺き、緊張を解消しようとすることです。仕事上の失敗を自分の病気や家庭の事情のせいにしたりします。

知性化:感情や欲求を知的にコントロールする。感情や欲求などを、そのままの形で表現したり満足させるのではなく、知識の獲得や伝達などの知的態度によってそれをコントロールしようとするものです。知的能力の発達が著しい青年期に活発になり、性衝動を性の知識を追求する事で代理満足を得ようとする行為などもこれに当たります。

昇華:社会的に受け入れられない感情や欲求を、社会的に好ましい形で表現する。性的欲求や攻撃性を直接的な方法で発散するのではなく、スポーツや音楽、創作などに置き換えて表現します。精神的エネルギーが非生産的な用途に消費されず、すべて有用な仕事に使われるので「成功した防衛」ともいわれており、文明や文化の進歩の源泉にもなっていると言われています。

逃避:空想や病気に逃げ込んで困難を避ける。困難な状況や危険にさらされて、不安を経験するとその状況を避けようとする行動傾向です。危険な状況から単純に逃げ出す「退避」、解決困難な現実の課題を避けて、他の近づきやすい課題に逃避する「現実への逃避」、病気になることによって、困難な状況から逃避しようとする「疾病への逃避」、白日夢や空想のなかで仮定の欲求満足をはかる「空想への逃避」などの種類があります。

退行:幼児期・児童期の段階に後戻りする。幼児期や児童期に年下の兄弟が出来ると愛情を奪われたと感じて、出来ていたことが出来なくなることです。トイレが出来なくなりオムツに戻ったり、食べれたのに哺乳瓶でないと食べなくなったりして、両親の愛情をつなぎとめようとする健康な反応です。

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